喜嶋先生の静かな生活 [長期研究時代]
10冊目。
大人になることを強制されたハンスの悲劇。
子どもらしさを大切にするよう説いた鍛冶屋フライクの言葉が彼に届かなかったのはなぜか。
「教師の連中も、この子をこんな目にあわせるのに手をかしたわけですよ。それにあなたとわたしも、この子に対していろいろと手抜かりがあったのでしょうね。」
教えるという立場に立つようになった今だからこそ、ハッとする言葉だ。
ハンスは、もっと神童のように描かれていたような気がしたが、そんなことは全くなかった。
思春期の自己投影は多分に誇張されやすい、ということだろう。
それを恥ずかしい、と感じる年齢も過ぎてしまった。
喜嶋先生の静かな世界 The Silent World of Dr.Kishima (講談社文庫)
- 作者: 森 博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/10/16
- メディア: 文庫
11冊目。
あとがきにもあるが、これは理系版「こころ」だ。
今、研究に携わる身としては、「論文」や「学び」に関する文が強く印象に残った。
「既にあるものを知ることも、理解することも、研究ではない。研究とは、今はないものを知ること、理解することだ。それを実現するための手がかりは、自分の発想しかない」
「この問題が解決したら、どうなるんですか?」
「もう少しむずかしい問題が把握できる」
「そうやって調べることで、何を研究すれば良いのか、ということがわかるだけだ。本や資料に書かれていることは、誰かが考えたことで、それを知ることで、人間の知恵が及んだ限界点が見える。そこが、つまり研究のスタートラインだ。文献を調べ尽くすことで、やっとスタートラインに立てる。問題は、そこから自分の力で、どこへ進むのかだ」
アンダーラインを引きながら読んだら、本がよれよれになってしまった。時間をおいて何度も読み直したい本だ。
コメント 0