つくられた心 [読書・映画・音楽]
──近未来の東京を舞台にした物語ですが、これは「明日の東京」の話かもしれません。AIと人間が共存する社会を読み応えたっぷりに描きます。(Amazon)
言語学バーリ・トゥード: [読書・映画・音楽]
言語学バーリ・トゥード: Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか
- 作者: 川添 愛
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2021/07/26
- メディア: 単行本
ラッシャー木村の「こんばんは」に、なぜファンはズッコケたのか。ユーミンの名曲を、どうして「恋人はサンタクロース」と勘違いしてしまうのか。身近にある言語学の話題を、ユーモアあふれる巧みな文章で綴る。著者の新たな境地、抱腹絶倒必至! 東京大学出版会創立70周年記念出版。(帯より)
サンドイッチクラブ [読書・映画・音楽]
洋書風の表紙ですが、内容は日本の児童文学そのもの。「タマゴ」こと桃沢珠子と、「ハム」こと羽村ヒカルの凸凹コンビの友情物語です。
☆
タマゴとハムでサンドイッチクラブ・・・他の登場人物たちも、サンドイッチの具材から命名されています。「葉真(ようま)」はレタス、「ちず」はチーズ、「杏」は…なんでしょう? 一読したとき、「ハイスクール奇面組!」を思い出してしまった・・・という感想が、今の小学生には通じないのが寂しいですね(笑)。
☆
さて、頭もよくない、大きな夢もない。でも、満たされた生活を送っているタマゴが、塾の特待生をとるほど頭がよく、少し変わっているハムと出会うことから、この物語は始まります。
満たされなさの充足を願う物語。そうした題材はすでにありふれたものになっています。ある者は自由を求めて海へ出たり、またある者は別の自分になるためにメトロポリタン美術館に家出をしたり・・・こうした児童文学の例は、枚挙に暇がありません。
☆
この物語に深みを与えているのは、戦争の描写です。平和な日常の中に、戦争の影がちらちらと入り込むのです。ハムの戦争恐怖症は極端ですが、周囲の人達の無防備な安心感と対比したとき、その不安は決して極端なものではないように感じました。
なぜ私たちは、戦争の影におびえず、安心して生きてしまっているのでしょう。何かがマヒしてしまっているからでしょうか。おかしいのは、過剰に戦争を恐れるハムではなくて、むしろ私たちの方なのでは? ・・・そんな思いに駆られます。
☆
後半、タマゴが物分かりがよすぎて、ご都合主義的な展開なのが気になりますが、読後感は悪くありません。悪くないどころか、「とてもいい」です。特に、砂像づくりという馴染みのない題材で、二人のつながりを描くのはとてもいいなと思いました。
雷獣ヴァヴェリ [読書・映画・音楽]
フレデリック・ブラウン短編集「さあ、気ちがいになりなさい」より「雷獣ヴァヴェリ」。
ある日突然、生活の中から電気が失われる。
物語はそこから始まります。世の中は、当然大混乱に陥るのですが、その後の人間の適応力の速さ! 現実でもきっとそう、人間は思っている以上に強かです。とはいえ、この物語の結末は、ずいぶんと牧歌的ともいえるでしょう。実際に、もしもこの世の中から電気が失われたら、馬力や蒸気の時代に戻るとは思えません。
「春のかおりが湿った空気の中で、やわらかく 甘く 漂っていた。
平和と黄昏。
遠い雷鳴。
〈残念だな〉と彼は思った、
〈すこしでもいいから稲妻が光ってくれたらなあ〉
彼は稲妻だけが恋しかった。」
平穏の中にあっても、人間は稲妻(=文明的なもの)を求める生き物です。
針供養 [ことば]
『虹いろ図書館』シリーズ [読書・映画・音楽]
◆題名+表紙情報から、内容の予想を試みてみました。
・なぜ「にじいろ」?
・「へびおとこ」って何者?
・いじめにより不登校になった少女が主人公?
・表紙の女の子が主人公?
・この子がにじいろ図書館で「へびおとこ」と出会うことで、不登校を克服してハッピーエンドを迎える?
・・・5分間ほどで思いついたのはそのくらいでした。
◆読後に読み返してみると、情報量が増えているので、同じものを見ても、見えるものが違います。題名+表紙からの予想読み→読後の読み返しは、読書体験による世界の変化が実感できる、おすすめの読書法です。
・「へびおとこ」と言えば見世物小屋。見世物として好奇の目で見られる存在の暗喩。題名読みの時点で気づきませんでした。
・表紙絵をよく見ると、物語のキーアイテムがそこかしこに! 「ウォーリー」シリーズのように、じっくりと見入ってしまいます。
◆「へびおとこ」ことイヌガミさんのあだなの付け方が秀逸です。
読書好きならぐっとくる、「ショーネンヒッコー君」や『ドリトル先生シリーズ』をもじった「スタビンズ君」というあだ名がすごくいいですね。今、朝日新聞で連載中、福岡伸一さんの「ドリトル先生ガラパゴスを救う」を読んでいるところだったので、「スタビンズ君」という名前が出てきただけで思わずニヤついてしまいました。
そういう、読書好きをくすぐる仕掛けがたくさんある本です。続編の『虹いろ図書館のひなとゆん』もいい本ですが、私は断然へびおとこが好きです。
給食アンサンブル [読書・映画・音楽]
-
家庭の事情で転校した美貴。
心は前の環境に置き去りのまま、新しい中学校で「ここは私の場所ではない」という思いを抱えて過ごしています。前の中学校はよかったのに。それに比べて、今の中学校は・・・
-
不満の最たるものが給食の時間です。安っぽい献立も、騒々しい食事環境も、何もかもが気に入りません。給食を口にしようとしない行為に、新しい世界を取り込もうとしない美貴の心情が象徴的に表れています。
前半部分の美貴の心情は、クラスがえがあって、新しいクラスになじめない子たちには、とても共感できると思います。
-
そんな美貴が変わることができたのは、周囲の優しさがあったからです。それは間違いありません。でも、いかに恵まれた環境にあっても、変われない人は変われないのです。美貴は、自分の寂しさに気付いていたから、周囲の優しさを変わるためのきっかけとして受け止められました。
-
「素直になれば、世界は変わる。」簡単なことのようだけど、とても難しいことですね。現実には、なじめないまま鬱屈とした日々を送っている中高生も多いことでしょう。私自身もそうでしたし。
- 給食を美味しく口にすることができた美貴の変化を、大人になった私は「希望」と感じましたが、若い世代の人たちは、どんな読後感をもつのでしょう。意見交換をしてみたいなぁと思いました。