もうひとつの曲がり角 [読書・映画・音楽]

2年前に担任したクラスの学級通信名が「曲がり角の向こう」でした。

「赤毛のアン」の有名な一節、

 

「曲がり角の向こうに何があるのか、今はわからないけど、きっとすばらしいものが待っていると信じることにしたわ。」

 

から拝借しました。

そういうこともあって、自分にとって「曲がり角」は特別な言葉です。

もうひとつの曲がり角

もうひとつの曲がり角

  • 作者: 岩瀬 成子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/09/26
  • メディア: 単行本

 

さて、岩瀬成子さんの新作です。

 ①タイトルに「曲がり角」という言葉が入っている。

②表紙を酒井駒子さんが描いている。

③自分は岩瀬成子さんのファンである。

ときたら、もう買わない理由がありません。

今作も、いろいろな意味で「突き刺さるお話」でした。

引っ越しによる環境の変化に馴染めない小学校5年生のわたし、朋。何か大きなトラブルがあるわけではない。でも、何となく不調和な毎日が子どもだった彼女を少しずつ変えていく・・・「もうひとつの曲がり角」はそんな話です。

「赤毛のアン」がそうであるように、この物語でも、「曲がり角」は象徴的に描かれます。アンが、積極的に曲がり角の向こうの希望を信じることにしたのに対し、この物語の主人公・朋は、もっとぼんやりとした感情のまま、曲がり角の先に進んでいきます。アンほど理知的ではないけれど、曲がり角の先にいくことを自ら選ぶという強さは共通しています。強さというよりは、内面から自分を動かす衝動性と呼ぶべきでしょうか。

小学校教諭として5年生の子たちと関わる機会が多いだけに、朋の抱える「うまく言えないけれどそうしたの!」という心情はよくわかります。理性的な判断ではない。けれども、決して感情だけに任せて決めているわけではないのです。岩瀬さんは、こうしたアンビバレントな内面描写が非常に上手く、まるでかつての自分を描かれているかのような錯覚を覚えます。だから突き刺さるのです。

物語の後半、彼女(とその兄)が下したある決断に対して、父親は言います。

「どっちにしても、よく考えてからきめる、というのは大事なことだから」

それに対して、彼女は答えます。

「じっくりかどうかわかんないけど、考えたよ。しなくちゃいけないといわれたから、しなくちゃいけないって思うのは、それは考えてないってことじゃないのかな」

自分の生き方を自分で選ぶ。

その第一歩を踏み出した朋の前途は、多難であっても希望を感じさせるものです。

「ああ面白かった!」というカタルシスはありませんが、読み終えた後も、心に澱となって残り続ける作品…「もうひとつの曲がり角」は、やはりいつもの岩瀬さんの本でした。


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はさみむし [読書・映画・音楽]

先日の理科の時間のことです。

 「先生、この虫は何ですか?」と尋ねられました。

見るとそれはハサミムシです。
自分にとっては、アリやダンゴムシと同じくらいなじみ深い虫だったので、少々驚きました。
今の子どもたちは、ハサミムシも知らないのか!?
いえいえ。たった一人の質問で「今の子どもたち」と言い切るのは乱暴ですし、そもそもハサミムシがメジャーな虫だという私の認識がおかしいということもあり得ることです。
ともかく、その会話がきっかけとなり、私の頭の中にハサミムシが住まうことになりました。
すぐにその日の放課後、図書室で下の本を読みました。
ハサミムシのおやこ (ふしぎいっぱい写真絵本)

ハサミムシのおやこ (ふしぎいっぱい写真絵本)

  • 作者: 皆越 ようせい
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2008/05/01
  • メディア: 大型本
表紙からして、すさまじいインパクトです。
40年も生きていて、メジャーだと思い込んでいたハサミムシのたまごを自分は見たこともなかったし、どんなものなのかを想像したこともなかった事実に気が付きました。
自分自身が無知であることに気付けるのは、幸せなことです。ありがとう、ハサミムシ。
その後もハサミムシのことをいろいろと調べているうちに、月刊かがくのともの11月号が「はさみむし」の本であることを知りました。タイムリー過ぎて、ちょっと気味が悪いくらいです。
かがくのとも 表紙
さっそく近所の書店に駆け込み、購入しました。
もう何度か読みましたが、これが実に素晴らしい本です。クラスの子どもたちにも早速紹介しようと思います。

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楽しさを大切に [教師修業]

「子どもらしい」といえばプラスに、

「子どもっぽい」といえばマイナスに聞こえます。


目の前の子どもは同じ存在のはずなのですが、「子どもを大人に導いていくのが教師の仕事」という思いが強すぎると、どうしても「子どもらしさ」と受け止められず、「子どもっぽい」とマイナスの捉えをしがちです。


先日、ケンカばかりするクラスの子に、「小さなことでつまらないケンカをくり返していると、小さなつまらない人になってしまいますよ。」と指導をしました。指導しながら気付きました。あれっ。小さなつまらないことで目くじらを立ててお説教をしてしまっているのは自分自身じゃないか。「小さなつまらない人間って自分のことだ・・・。」強い言葉は、まさに諸刃の剣です。繊細な私は、自分の言葉に深く傷つきました(笑)。


「子どもざかり」の3年生と付き合っていると、自分の考え方というか軸がいかに大人寄りになっているかに気付きます。

「人は正しさのみで生きるにあらず。」です。楽しさを軸に、それでいて正しい方向に進みたいという思いを育んでいけるか。初心に戻ってやっていこうと思います。



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彗星 [読書・映画・音楽]

学生時代に「LIFE」にやられて以来、小沢健二さんのファンです。


LIFE

LIFE

  • アーティスト: 小沢健二,小沢健二,服部隆之
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1994/08/31
  • メディア: CD

今秋、その小沢さんが「毎日の環境学」以来、13年ぶりとなるアルバムを出すとのニュースが耳に入ってきました。嬉しいニュースです。


先行シングルとしてリリースされた「彗星」を早速聞きました。


今ここにある この暮らしこそが 宇宙だよと 今も僕は思うよ なんて奇跡なんだと


他の人が歌ったら軽薄にとられかねない歌詞も、オザケンが歌うと説得力があります。

出会いからずいぶんと経ちますが、オザケンは今でも自分にとってアイドルなのだなとしみじみ思いました。


アイドル・・・と言えば、先日、20数年ぶりに魯迅の「故郷」を読みました。この物語で「偶像崇拝」という言葉を覚え、心に刻み込んだのは私だけでしょうか。


ルントウが香炉と燭台がいると言った時、わたしは内々彼を笑っていた。彼はどうしても偶像崇拝で、いかなる時にもそれを忘れ去ることが出来ないと。ところが現在わたしのいわゆる希望はわたしの手製の偶像ではなかろうか。ただ彼の希望は遠くの方でぼんやりしているだけの相違だ。


故郷/阿Q正伝 (光文社古典新訳文庫)

故郷/阿Q正伝 (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/04/20
  • メディア: Kindle版

光文社古典新訳文庫で出ていることを知りました。この本では、偶像崇拝をなんと訳しているのでしょう。機会があればまた再読したいところです。

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綿の国星 [読書・映画・音楽]

春は長雨


どうしてこんなにふるのか さっぱりわからない


どうして急にだれもいなくなってしまったのか さっぱりわからない


だめだ ポリバケツのふたを あける力もないや


・・・大島弓子さんの漫画「綿の国星」の導入ページの言葉です。


綿の国星 (第1巻) (白泉社文庫)

綿の国星 (第1巻) (白泉社文庫)

  • 作者: 大島 弓子
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 1994/06/01
  • メディア: 文庫

物語全体に通底する詩情が昔から好きなのです。

でも、定期的に読み返したくなるのは、それだけではなく、文体のリズムが心地よいからなんだと先日気付きました。

楽器が定期的な調律を必要とするように、人間の心にも調律が必要だと私は思います。「綿の国星」のリズムは、読み返すたびに私の心を調律してくれている・・・そう思うと、いっそうこの物語への愛着がわきました。



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サーカスのライオン

3年生国語の授業で扱う教材文です。

 

サーカスのライオン (おはなし名作絵本 16)

サーカスのライオン (おはなし名作絵本 16)

  • 作者: 川村 たかし
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 1972/11
  • メディア: 単行本
同じことをくり返す日常にすっかり退屈していたサーカス団の老ライオン・じんざが、
自分を応援してくれる男の子と出会い、元気を取り戻していく・・・そんな物語です。
元気をなくしてしょげているように見えたじんざのもとに、男の子はチョコレートをもって通い、自分のお母さんのことを話していきます。
この年令の男の子が、毎日通うというのは「よほど」のことです。
クラスの子どもたちも、「お母さんがいなくて寂しいんだ。」「じんざ以外に友達はいないのかな。」「チョコレートを半分こって、きっと気持ちをわかり合いたいんだと思う。」と読み取っていました。
ある日、男の子は、じんざのもとへ息を弾ませてやってきます。
お母さんが退院する日、たまったお小遣いをもってサーカスに行くよ!という男の子に対し、じんざは思います。
「・・・ようし、あした、わしはわかいときのように、火の輪を5つにしてくぐりぬけてやろう。」
サーカスを見に行くという男の子に対して、じんざが意欲を出す場面です。
子どもたちの中には、じんざの心情を、「たくさんのお客さんに昔のようなすごいところを見せてやりたい。」「サーカスにやる気を無くしていたが、やる気を取り戻した。」と読む子たちもいたのですが、実際は「男の子の気持ちに応えたい。」、ただそれだけなのですね。
3年生の素直な子どもたちとこの物語を読むと、じんざの「純真さ」がいっそう心にしみます。
境遇の似た者同士(男の子とじんざにその自覚があったかどうかはわかりません)が惹かれ合い、心を尽くし合う。
「サーカスのライオン」は美しい物語です。
同じようなテーマを内在しながら、「分かり合えない」ことを主題としていた「ごんぎつね」に対し、「サーカスのライオン」のじんざと男の子の関係は幸せそのものです。
しかし、この物語は、美しいままでは終わりません。突然の火事で危機に陥った男の子を救うため、じんざは男の子に5つの火の輪くぐりを見せることなく、命を落としてしまうのです。
来週からの授業では、この火事の場面を扱います。
死に隣接した緊迫感あるシーンですが、じんざの胸中に悲壮さはありません。
ただ男の子を救いたい。その一心です。
緊迫感とその渦中のじんざの心情。どんな読み方をすれば、それを表現することができるでしょうか。
週末はそんなことを考えながら、この美しい物語を反芻したいと思います。

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