持続可能な魂の利用 [読書・映画・音楽]
松田青子さんによる、ディストピア的・現代日本論です。
「世界は男で回っている」という男性優位の世界観を、「おじさん」という視点から語ります。その視点自体に、目新しさはありません。
本書の見所は、第2部、現代日本によく似た舞台で、秘密裏に行われていた計画が発覚するところからです。その計画の発覚は、世の中に大きな衝撃を与えましたが、同時に安堵をも与えました。育児中の母親たちがTwitter上で怒りを表明するとともに納得している様子を示しているのを見て、中心人物の一人である由紀は、こうつぶやくのです。
確かに、なんの裏もなく、普通にこうだったとしたら、本当に最悪な国でしかなかっただろう。
現代日本と寸分違わないリアリティで小説世界が描かれてきたからこそ、このつぶやきが効いてきます。裏に何の計画もないまま、普通にこうである今の日本は、本当に最悪の国なのかもしれない…一瞬でもリアリティをもってそう感じさせられた時点で、作者の掌の上、読者の負けです。
理屈を超えた部分で、情動的に訴えてくるものをもっている。今風に言えば「エモい小説」、心に波風が立つこと間違いなしです。
2020-06-07 22:21
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