レモンの図書室 [読書・映画・音楽]
「少女ポリアンナ」「赤毛のアン」「黒馬物語」「アンネの日記」「くまのプーさん」「オズの魔法使い」「穴」「ワンダー」・・・本は友だちになれる?
帯に書かれている小説群のタイトルを見てピンとくる人たちは買いでしょう。
本を心の拠り所として生きている少女カリプソが、本以外の拠り所と出会い、成長していく物語です。
カリプソには、妻をなくした悲しみから目を背け、仕事に逃げ込む父親がいます。
愛する人をなくした悲しみは同じなのに、その思いを共有できない父娘2人。袋小路のような現状を変えていったのは、大人である父ではなく娘のほうでした。
カリプソのように、幼くして家族の介護や看病をせざるを得ない立場になる子どもが、イギリスでは増えているそうです。「ヤングケアラー(若い介護者)」と呼ばれる子どもたちの存在は、日本でも近年大きな社会問題となっているとのこと、恥ずかしながら、私はこの本を読んで初めて知りました。
現実世界にできた「親友」を拠り所に、カリプソが困難を乗り越えていく姿は感動的です。
ですが、自身の思春期のありようを思うと、素直に感動できないのも事実です。
「本当に人間は、こんなに前向きに変容できるものかしら。」
と、「てぶくろを買いに」の母ぎつねのような懐疑的心情になります。
この部分は、読者の年齢やこれまでに重ねてきた経験によって、評価の分かれるところなのかなと思います。
(素直に共感はできなかったものの、決して悪い読後感ではありませんでした。念のため。)
もう一点。
物語のタイトルにもなっている「レモンの図書室」、この物語の重要な場面で、レモンがずらりと並んだ書架が象徴的に描かれるのですが、梶井基次郎の「檸檬」を思い出さずに入られませんでした。
日常的なものでありながら、ある特殊な状況の中に置かれることによって、それが非日常的なものに転換する・・・この物語も、「檸檬」も、その題材としてレモンを選んでいるところが興味深いです。
巻末には、「カリプソの読書案内」が付いています。
この物語を楽しめた人は、きっと好きであろう読書リストです。とりあえず私は、久しぶりにダールの「アッホ夫妻」が読みたくなりました。
2019-09-29 18:01
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